先日、私は婚約者であるガランの浮気現場を目撃した。
相手はあろうことか私の親友。
私の記憶にある限りでは二人が会ったのは一、二回。
だが、私の知らない所で二人は秘かに仲を深めていたらしい……
親友も親友だが、ガランもガランだ。
もう婚約までしてしまっているのに、他の女と浮気をするなんて。
一体彼は何を考えているのだろうか?
そう思った時には私は彼を部屋に呼びだしていた。
事を荒立てる前にガランにこのイライラをぶつけたい。
とりあえず一発ぶん殴りたい!!!
そんなことを思っていた今現在。
目の前にはガランの姿があった。
先ほど浮気のことを問い詰めたら彼はあっさりと認めた。
「じゃあ、ガラン。あなたは浮気をしていた……それは認めるのね」
「ああ……本当に……ほ、本当にすまなかった! ゆ、許してくれ!」
ガランはそう言うと私に向かって深く頭を下げた。
正直なのはいいが、だからといって許せるわけではない。
「もうしないから……だから……もう一度俺と……」
「うるさい!!! 黙れ!!」
私は思いっきり右手を後ろに引いて、ガランの顔面に突き出した。
「バコッッッ!!!」
自分でも驚くほどの音がして、ガランがドタッ!!と背中から床に倒れこんだ。
「ナイラ……痛い……うう……」
泣きそうな声でガランが呻いている。
頬が赤く腫れ、体はガタガタと震えていた。
そんな婚約者のことを私は蔑むような目で見下ろした。
ったく……男のくせにうじうじしてんじゃないわよ!
そもそもあんたが浮気したから殴られてんでしょ!
心の中で怒りを叫ぶも、なかなかイライラがおさまらない。
目の前で半べそをかいているガランをどうしてやろうかと思案していた時、私はあっと小さく声をあげ、一つの妙案を思いついた。
そうか……私にはあれがあるじゃない!
みてなさいガラン、浮気したことを後悔させてあげるわ!!
そして……
「パチン!」
私は指を鳴らした……
*
私がその能力に目覚めたのは六歳の頃。
美味しかったお菓子をもう一度食べたいなと思ったら、いつの間にか時間が戻っていた。
最初は上手く扱えなかった能力だったが、魔法学校に行くようになってからは、自分の意志で発動させることが出来るようになった。
しかし同時に私はこの能力の恐ろしさにも気づいた……
それからというもの私はこの力……時を少しだけ戻せる能力をひた隠しにしてきた。
家族にもガランにも、もちろん言っていない。
自分だけの秘密にしよう……そう誓ったのだ。
「ああ……本当に……ほ、本当にすまなかった! ゆ、許してくれ!」
ガランはそう言うと私に向かって深く頭を下げた。
正直なのはいいが、だからといって許せるわけではない。
「もうしないから……だから……もう一度俺と……」
「うるさい!!! 黙れ!!」
私は思いっきり右手を後ろに引いて、ガランの顔面に突き出した。
「バコッッッ!!!」
次の瞬間、ガランがドタッ!!と背中から床に倒れこんだ。
この音を聞くのは二回目だが、まだまだ慣れる気配はない。
「ナイラ……痛い……うう……」
泣きそうな声でガランが呻いている。
頬が赤く腫れ、体はガタガタと震えていた。
あぁ……すっきりした!
まさか二回もガランを殴れるなんて!
…………もう一回いってみる?
私は自分の心に問いかけた。
浮気をした婚約者を殴ったことにより頭は多少晴れていた。
が、やはりまだイライラが少しだけ残っている。
もう一回だけ……いいよね?
私は自分に言い聞かせるように頷くと、指を鳴らした。
*
俺はガラン。
たった今浮気がバレて、婚約者のナイルに殴られたところだ。
顔が痛い。涙も出てくる。
くそっ……五回も殴ることないのに……
実は俺は婚約者のナイラにずっと隠していることがある。
それは……魔法を使えるということだ。
もちろん火を出せるとかそういう類のものじゃない。
一回見たもの、感じたものは二度と忘れないという魔法だ。
発動から24時間は何が起ころうと、どんな出来事も忘れることはない。
ただ一週間に一回しか使えないのと、発動を解除できないのが難点だが……。
そして俺は今日、この能力を使った。
ほんの気まぐれだったが、まさかそのせいでこんなことになってしまうとは……
どうやらこの魔法が今回は、俺に悪運を呼び寄せているようだ。
実はどうにもさっきから同じことが何回も繰り返されている。
ナイルに五回も殴られている。
きっと誰かが魔法を使って、何回も時を戻しているんだろう。
……突拍子もない考えだが、そうとしか説明できない。
本当に勘弁してほしい。
時が戻るたび逃げ出そうと考えたが、体は全然動かない。
言葉も同じことしか言えない。
きっと魔法を使っている本人以外は決まった行動しかできないのだろう。
「もうしないから……だから……もう一度俺と……」
あ……来る……
「うるさい!!! 黙れ!!」
「バコッッッ!!!」
浮気なんてしなければ良かった。
今は本当にそう思う。
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