エリザベスには自慢の婚約者がいた。
端正な顔立ちに温和な性格で、名前をロベルトといった。
ロベルトは、昔から女性に大人気だった。
そんな彼も、結婚適齢期になると多くの縁談が舞い込んできた。
しかし、彼はその中の一つも受けなかった。
なぜなら彼は同級生のエリザベスを秘かに想っていたからだ。
「エリザベス!僕と婚約して下さい!」
今から一か月前のこと、私の家にやってきたロベルトが真剣な眼差しでそう言った。
私は驚いて言葉を失った。
まさか彼が私のことを好きだなんて……嬉しくて涙が出そうになる。
「はい……私でよければ……喜んで」
私は彼の告白を受け入れた。
しかし現在。
彼は私の正面で顔をしかめていた。
「エリザベス……婚約破棄してもいいよね?」
「えっ……」
唐突な発言に耳を疑う。
「だって君って陰気臭いし、性格悪いし、それにブスだし。正直言って一緒にいると息苦しいんだよね。だからもう終わりにしたいんだ」
「……」
私はショックを受けた。
今まで生きてきた中でこれほどまでに傷ついたことはないだろう。
信じていた彼からの中傷に心が重くなる。
「ごめんね?でも僕のこと愛しているから許してくれるよね?実は他に好きな人ができちゃってさ」
彼は申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った。
しかし微かに笑みがこぼれている。
その瞬間、怒りが爆発した。
「ふざけないで!!」
私が怒鳴ると、ロベルトは驚いたように目を丸くした。
しかしすぐにニヤリと笑みを浮かべる。
「ふーん……そんなこと言える勇気が君にあったんだね。ふふ」
余裕たっぷりな態度を見せる彼にイラつきを覚える。
「もういい!!二度と私の前に姿を見せないで!!!」
私は泣きながら叫ぶと、そのまま部屋を出ていった。
その後、私とロベルトと婚約破棄をした。
両親からはひどく怒られたけど、あんなやつと結婚させられるよりかは何倍もマシだと思った。
婚約当初の熱は冷めきっていた。
*
それから数日後。
私の元に幼馴染のエリックが訪れた。
久しぶりに会う彼は少し大人びていて格好よくなっていた。
「久しぶりだな。元気にしてたか?」
「うん……まあそれなりに」
私は作った笑顔で答えた。
しかし彼はそれを見破ったのか、訝し気な視線を私に向けた。
「お前、何かあっただろ?俺には分かるぞ」
「別に何もないよ」
私は強気に言い返す。
すると彼は小さくため息をつく。
「嘘つけ。俺はお前の幼馴染なんだぞ?隠しても無駄だ」
彼の言葉に思わず胸が高鳴った。
私は素直に白状することにした。
「実はね……婚約者に振られちゃって……」
「何だと!?誰だよそいつは!!」
彼は声を荒げた。
こんなにも感情的になる彼を初めて見たかもしれない。
「それがね……」
そして事の経緯を説明した。
話を聞き終えた彼は頭を抱えた。
「そんな……マジであり得ないな。婚約者がいる身でありながら他の女に手を出すとか……最低すぎる」
「本当そうだよね……」
同意するように相槌を打つ。
「それで……これからどうするんだよ?」
「分からない。まだ頭が混乱していて……上手く考えがまとまらないんだ……」
私の言葉にエリックは真剣な顔になった。
「それなら……俺と一緒に暮らさないか?」
「えっ……」
突然の提案に驚く。
「お前さえ良ければの話だけど……」
彼は照れ臭そうに頬を掻いた。
私は数秒の後、決心した。
「ありがとう……私でよければ……」
こうして私たちは同棲を始めた。
最初はぎこちなかったものの、次第にお互いの距離が縮んでいった。
幸せな日々が続く中、ある日のことだった。
エリックからプロポーズされた。
断る理由などなかった。
むしろ大歓迎だった。
彼と一生を共にしたいと思っていたから。
こうして私はエリックと結婚を果たした。
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